ANTIQUE BOOKS on ARCHITECTURE - XXV
神谷武夫 著・写真

私家版 『 イスラーム建築 』 その魅力と特質

Takeo Kamiya :
" ARCHITECTURE of ISLAM "
Its Charm and Elucidation
Written in 2006, Private Press Edition in cloth binding, 2014


神谷武夫

典雅な布装本となった、私家版『イスラーム建築』

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 私の第7冊目の本、『イスラーム建築、その魅力と特質』は、マフィアの圧力によって どこの出版社からも 出版拒否されて「幻の本」となってしまったことを、この「古書の愉しみ」の第 21回で書きました。そこで、たった1部だけ残った ゲラ刷りをスキャンして、全ページの 内容・レイアウトを そこに展観したわけです。その作業をしている間、残ったゲラ刷りは 製本家に革製本してもらって、たった1冊の本にして 保存するつもりでいました。

 しかし スキャンが終わって、その造本を考え始めたら、その欠陥が見えてきました。というのは、ゲラ刷りというのは 片面印刷であって、裏は 真っ白です。これを そのまま製本すると、書物全体の厚さが本来の2倍になってしまうばかりでなく、読むときには ページを2枚ずつ めくっていかなければ なりません。全体の半分が白ページというのも、いかにも 中途半端な書物の印象を与え、本の内容まで 半端なもののように 見えてきてしまうでしょう。

 これでは まずいと、あれこれと思案している内に、このゲラ刷りを 両面コピーにとれば、白ページのない、完全な本を作ることが できるのではないかと 思いつきました。編集、レイアウトの全てが終わったゲラ刷りですから、裏・表の組み合わせさえ間違わずに 正確な両面コピーをとれれば、本来の編集・ブックデザインどおりの、12ページを1折りとして、全部で 18折りの、糸綴じ製本ができるはずです。

 そこまでわかると、初めはゲラ刷りを製本して たった1冊だけの本にしようと考えていましたが、コピーするのであれば 何冊でも作れるではないか と思い至ります。ここから、それを実現するための 長い探究が始まりました。用紙は どうするか、コピー(印刷)は どのようにとるか、あるいは どこに依頼するか、製本は うまくできるのか、等々です。

『イスラーム建築』の第1章、30ー31ページを 開いたところ。
第1章の写真ページは 余白をなくして、写真を最大限 多く 大きく載せている。

 まずは、全紙大のゲラ刷り(12ページ分)を、左右見開き2ページごとに切り離していきました。1ページの大きさは 20cm × 20cm ですから、裁ち落とし分を含めた2ページ分 206mm × 406mm の紙片が 全部で 106枚となり、その半数が カラー印刷です。これを コピー屋さんに出して、裏・表の位置がピッタリと重なる、カラーの両面コピーをとってもらう となると、これは 綿密な仕事となり、かなりの費用が かかることが解りました。となると、これを実現するためには 自分でコピーをとる(印刷する)しかない ということになります。

 コピー機(プリンター)によるコピーと、本当の印刷とはどう違うのか、コピーでも本にできるのか、画像は どのくらい劣化するのか、疑問は次から次へと生じてきます。また、私のもっているプリンターは A4用ですから、これでは2ページ見開きの原稿はとれません。ついに A3用のコピー機(プリンター)を買うことにしました。A3用のプリンターというのは、かつては私の事務所でもリースで使っていましたが、この目的のためだけにあんな大型のものは高価で買えません。そこで、現在製造されている 2、3のメーカーの 卓上型プリンターから、エプソンのものを選びました。

『イスラーム建築』の第2章、72ー73ページを を開いたところ(周囲に余白あり)

 今度の本は ぴったり A4判でもなく B5判でもない、20cm × 20cm の正方形という変形サイズですから、この機械を使って 正確な両面コピーをとるには どうすればよいか、しかも第1章と第4章では 写真を 端部まで いっぱいに入れているので、コピー機による、端部が印刷されない 余白の帯 というのは許されません。いろいろ 試行錯誤を重ねた末に、ここに 詳しく書いている余裕がありませんが、ある方法を開発しました。また コピーの発色も、紙を セミ光沢紙(いわゆる「アート紙」)にして、インクを たっぷり使う印刷方法にすると、きわめて美しい発色の コピーがとれることも解りました。(しかし、これらの方法がまた 次から次へと付随的な問題を生んで、その都度、解決に四苦八苦しましたが)。

 コピーといっても、これは普通の感覚の 手軽なコピーではなく、A3判1枚をとるのに、じっくり 4〜5分もかかるという、まさに「印刷」です。したがって本1冊分の印刷が 数時間でできる、というようなものではありません。私の事務所は印刷所と化し、当初は 10冊だけ制作することにしたのですが、トラブル続出で、その印刷に1ヵ月もかかりました(その後は慣れてきて、ずっと早くなりましたが)。

『イスラ-ム建築』の第3章、94-95ペ-ジを 開いたところ(モノクロ・ペ-ジ)


 この両面コピー印刷ができると、次は これを 折っていかねばなりません。通常の本は 16ページで 一折りとなりますが、私の本は 20cm 角の正方形を 全紙から無駄なく 紙どりしたために、一折りが 12ページとなります(用紙が 文字本よりも厚いアート紙なので、ちょうど良いとも言えます)。両面コピーした 見開き2ページの紙を、裏表の わずかなズレを調整しながら 中央で折って、12ページずつの折丁(おりちょう)を作っていきます。こうして出来上がった 全部の折丁の束を 製本工房に持っていって、18折りずつ、糸かがりの製本を してもらうわけです。

 現在では、出版される本の大多数が「無線綴じ」(見開きではなく、1ページずつに裁ち落した用紙を、糸を使わずに 接着剤だけで 背を固める製本)になっていますが、私のような愛書家にとっては、あれは 正しい本とは言えません。ノドまで開くと 背が割れてしまうようでは、扱いにくく、読みにくく、醜い本になります。きちんとした書物は、昔も今も、糸綴じでなければ いけません。それに 遠い将来、本が壊れたとしても、糸綴じの本ならば、また綴じ直すことができます。100年、200年前の古書というのは、そうやって生き延びてきたものが多いのです。(特に古い本ではなくとも、そんなことを描いた 子供向けの絵本『ルリュールおじさん』があります。)

『イスラムの建築文化』(機械製本) と 私家版『イスラーム建築』(手製本) の比較。『イスラムの建築文化』は角背で、色は やや紫がかった青、おもて表紙には 金文字箔押し、大きさは 21.5cm × 28cm の長方形で 上質紙 292ページ、定価は 22,000円。『イスラーム建築』は丸背で、色は やや緑がかった青、おもて表紙には 原ジャケットの縮小写真を貼付。 大きさは 20.5cm × 20.8cm の正方形で アート紙 212ページ、頒価は 10,000円。ざっと見ただけでは、どちらが手製本で どちらが機械製本かは 見分けられない。

 幸い、よい製本工房に めぐりあいましたので、ごく少部数ながら、本格的な糸綴じの布装本を 作ることができました。背にはタイトルを 金文字 箔押しで 専門家に外注してもらいました。当初は 保存用として 10冊だけを作ることを考えていたのですが、このやり方なら 何冊でも作れる ということが解りましたので、全部で 50冊を作ることにしました。というのは、もう8年前から HPで『イスラーム建築』が 彰国社から執筆依頼されたにもかかわらず、出版直前になって その彰国社が出版拒否し、また 他のどこの出版社も、マフィアの圧力で、あるいはマフィアが怖くて、出版できない」と、何度も書いていますので、読者の中には、何とか この本が出版されないかと 心待ちにしてきた方もいるので、そのような方々や、イスラーム建築に関する 本当によい書物が欲しいと 探し求めている方々にも頒布できるようにしよう、という意図からです。

角背の『イスラムの建築文化』と、丸背の『イスラーム建築』の頂部の比較。
花ぎれ、スピン(しおり紐)ともに白いのは 共通。 これに 天金(てんきん)をほどこすと、5千円から1万円かかる。『イスラーム建築』の 第1章は、写真を端まで一杯にいれて裁ち落としているので、小口が黒っぽく見える。

 私はこの本を書くまでに ずいぶん多くのイスラーム諸国を訪ねて 古建築の取材・撮影をしてきました。資料を手に入れるために、必ず現地の書店を まわります。すると、出来の良い本というのは、たいてい欧米からの輸入本であり、現地で出版された本というのは、拙いモノクロ写真が 悪い印刷で載っている「後進国本」が ほとんどです。建築書というのは、写真が命です。写真が悪ければ、その建築文化の価値も十分に伝わらないし、本文との間に 齟齬もきたします。日本は先進国の筈なのに、そんな 後進国なみの建築書が多いのには、まったく閉口します。(その原因、日本の建築界と出版界の構造的問題については、いずれまた 論じることがあるでしょう。)

 で、そんな後進国なみの本に あきたらない思いをしている方々に、今度の『イスラーム建築』は、その渇をいやす はずだと思います。ただ上述のように、機械による印刷ではなく、さまざまな制約のある、手作業によるコピー印刷なので、細かな点での不具合は、やむをえません。特に1部だけ残ったゲラ刷りを、編集担当者だった三宅さんが持ってきてくれた時に、紙が大きいので、折り畳んでしまったのです。そのために、ところどころ 隅のほうに 折りジワが残ってしまいました。また、コピー機の性能から、紙にたっぷり乗ったインクを プリンタ・ヘッドが 引きずってしまうケースが あったりします。しかし 全体としては、アート紙ということもあり、きわめて鮮やかな発色の、素晴らしいカラー印刷となりました。

 本の内容は 前回書きましたので、ここには 装幀について書いておきましょう。前述のように、当初 ゲラ刷りを保存しようと思ったときには、革製本にするつもりでした。しかし革製本というのは、たった1部だけならば、多少お金がかかっても やむをえないと割り切れますが、50部も作るとなると、そういうわけには いきません。革製本は、フル・レザーで3万円、第 22回(「古書の愉しみ」、以下同様)で紹介した、ランボーの『 全詩編 』のような 凝った革製本を製本家に依頼すると、日本では 10万円ぐらい かかることでしょう。背表紙だけでも革にできないかと思ったのですが、希望者に頒けるとなると、頒価が2万円となっても 高すぎるでしょうから、結局 革製本は あきらめ、布製本を選びました。

私家版『イスラーム建築』の表紙と内容

 日本人の多くは 革製本というのを見たことがないと思いますが、布製本というのも(革ほどでない にしても)あまり ポピュラーではありません。普通の ハードカバーの本は、ほとんどが 紙表紙です。私の本棚を見まわしてみても、布表紙というのは わずかしかありません。その主な原因は、「ブック・デザイン」というのが、商業主義で 派手になって、ほとんど「ジャケット・デザイン」と同義語になってしまったために、おおかたの本は 意匠をこらしたカラフルなジャケットで包まれていて、書物本体の表紙というのは、ほとんど見ることが なくなってしまったからです。(日本では 「カバー」と言いますが、英語で Cover というのは 表紙のことであって、表紙の上に かぶせた紙は「ジャケット」と言います。)

 第 19回で紹介した『シトー会の美術』をはじめとする ロマネスク美術の『ゾディアック叢書』は、カラー写真のジャケットが かかっていても、本体の表紙は常に、清潔な印象の布装です。前回の『イスラムの建築文化』は 函に入っていることもあって、ジャケットがなく、本体は すっきりした布装で、タイトルのみが 金文字で箔押しされています。
 私が「愛書家」趣味として買う洋古書は 革装が多いのですが、実は布装というのも 大変に好きです。とはいえ、「図書館製本」という言葉を ご存じでしょうか、図書館の傷んだ古書や、特に雑誌の合本などに用いられる布装ですが、その多くはバックラム装です。バックラムというのは 亜麻布などを、糊(のり)や 膠(にかわ)で固めて丈夫にしたものですが、実用性はともかく、美観的には 私の好みでありません。やはり 布装というのは、本物の布が良いのです。製本業界では、本物の布のことを「布クロス」とか「本クロス」と呼びます。

「布クロス」というのは 変な言葉ですが、ちょうど カタカナで「レザー」というと 本当の革ではなく、「模造革」や「ビニール・レザー」を指すことが多いように、単にカタカナで「クロス」というと 人造の安物の布を指すことが多かったので、それと区別するための習慣です。製本用の「布クロス」というのは、本当の質感の布で、丈夫な薄紙で裏打ちしてあり、これを表紙の 硬いボール紙に貼るのです。(ですから、製本用の「布クロス」でなくとも、どんな布でも 製本家に頼めば、これに裏打ちをして 本の表紙に使ってくれます。例えば、かつて愛用したネクタイや、亡き母の着物で、お気に入りの本を 布製本する、という如きです。)

 今回の『イスラーム建築』は 50冊ですから、長尺物の 裏打ちした「布クロス」を使ってもらいました。前回の『イスラムの建築文化』の布装本が とても気に入っているので、同じような紺色の布で仕上げ、背には タイトルを金文字箔押しと しましたが、おもて表紙には 金文字のかわりに、本来のソフト・カヴァー版につく筈だったジャケットを 縮小写真にして貼りこんで、やや華やかさを出しました。第 18回の『堀辰雄全集』に書いた「純粋造本」に近い、端正で好感度の本になったと思います。(ジャケットも函もないことの言い逃れ、と見る向きも いるかもしれませんが。)ともあれ、本来の彰国社版の ソフトカバー本よりは、ずっと立派な ハードカバー本となりました。

 彰国社版の『イスラーム建築』の帯に、編集者が考えた宣伝文句は、「イスラーム建築のすべてが わかる」でした。確かに、この本の文と写真を じっくり読んでもらえば、イスラーム建築の 一通りの知識が、頭脳的にでばかりでなく、感覚的にも 身につくことでしょう。(本格的に撮影された写真というのは、ざっと「見る」だけでなく、じっくりと「読む」ものです。)

「イスラーム建築」
鈴木一誌のデザインの帯が付いた、幻の『イスラーム建築』



 さて 前述のように、『イスラーム建築』の私家版を 50 部つくりましたが、8月に、さらに 50 部の増刷ができましたので、全部で 100 部の限定出版ということになりました。そのうち 10冊を保存用とし、あとの 90冊を、希望者に 実費でお頒けすることにしました。その実費というのは1万円です。これは 1,000部〜5,000部の大量機械印刷・製本ではなく、わずか 100 部の手製の本です。印刷と 折りは、全部私が やりました。その人件費は、まったく算入していませんので、これを1万円で頒布しても、私に利益はありません。この書物を、本当に欲しいと思う方、必要とされる方に お頒けする次第です。ご希望の方は、メールで ご連絡ください。実物を見た上で 買うかどうか決めたい と思う方は、私の事務所においでください。(書店には置いてありません。)事務所に来て買ってもらえば、送る手間が省けて、好都合です。実物を見た上で 買わずに帰っても、一向に かまいません。本を見ながら 雑談していってください。     (2014/ 09 /01)
    神谷武夫建築研究所 〒114-0023 東京都北区滝野川 3-1-8 -506
    Tel:03 -3949 -9409    Eメール:kamiya@t.email.ne.jp


 この私家版は小部数なので 誰にも贈呈せず、HP 以外で宣伝もしませんでしたが、頒布用の 90冊は もう ありません。それでも 特に必要とされる方、機関には、保存用の10冊を 取り崩して、何冊か お頒けしました。      ( 2019 /05/ 01 ) 





 この実費1万円のうち、その半分を占めるのは、印刷のインク代です。『イスラーム建築』1冊分のコピーをとるのに、何と 5,000円もインクを消費するのです(エプソンの4色セット1箱分です)。この印刷作業をしているうちに、この エプソンの あくどい からくりが解ってきました。それを以下に書きますので、興味のある方はお読みください(本の内容とは関係ありません)。

エプソンの あくどい商法


 今回の本作りのためにエプソンの A3用大型プリンター(コピー機)を買ったことは、上に書きました。日本では、プリンターの機械は 安くして、その代わりに インク ・カートリッジ代を高価にして儲ける、というシステムになっているのは周知の事実です。逆に東南アジアでは、日本のメーカーのものであっても、機械が高価でインク・カートリッジは安い、ということが、前に 新聞記事にもなっていました。
 私がエプソンのプリンターを買ったのは、今年の2月 19日です。それから1ヵ月くらいは あまり使えず、また いろいろな初期不良のトラブルがあって、修理員と相談したり、使い方を学んだりしていて、フルには使っていませんでした。本格的に使い始めたのは3月の下旬です。

 5月3日に「廃インク吸収パッドの吸収量が 限界に近付いています。」という表示が出ました。「廃インク吸収パッド」などという言葉は それまで聞いたことがないので 驚いて、取扱い説明書を見ると、次のように書いてあります。

エプソン PX-1600Fの操作ガイドの中の、廃インク・パッドの説明(クリックして拡大)


よく解らないので、「印刷継続」をしていると、今度は「廃インク吸収パッドの吸収量が 限界に達しました。」という表示が出て、プリンターが使えなくなるのです。

 この「吸収パッド」というのは、ユーザーが自分で交換することはできません。エプソンの修理センターに電話をして、修理員を派遣してもらわなければ ならないのです(別に むずかしい仕事ではなく、ごく簡単な作業ですが)。その修理窓口というのは 平日の9時から5時半までしかやっていないので、(現実にありましたが)金曜日の5時半以降に最初の表示が出ると、パッドの交換を依頼できません。使い続けていれば 翌日の土曜日に限界に達して、機械が動かなくなり、その日と 翌日の日曜日は 印刷ができなくなるのです。月曜日の朝になって電話をすると、その午後になって、やっと修理員が来たりします。つまり、ヘタすると、まる2日間も、買ったプリンターを使えない、ということになります。こんなバカな話があるでしょうか?

 連休明けの 5月 9日に、エプソンの下請け会社の若い修理員が 廃インク・パッドの交換に来たので、いろいろ尋ねてみると、「廃インク・パッド」というのは、
   1.ヘッド・クリーニングをした時、
   2.機械を立ち上げた時、
   3.インクを交換した時、
ヘッドのノズル内に残っている 少量のインクが捨てられるのを 貯めていく袋だと言います。

 クリーニングは、ユーザーが自分ですることもあれば、機械が定期的に 自動ですることもあります。私は最初の1〜2か月の試行期間を除くと、自分では ヘッド・クリーニングを ほとんどやっていません。クリーニングを 多数回やったとしても、ノズルに残っていて捨てられるインク などというのは、ごく わずかな分量でしょう。ところが、その廃インクを吸い込んで 限界に達したパッドというのは、ずっしりと重いので 驚きました。
そして 修理員は、プリンターを買ってから(いくら たくさんコピーをとっているからといって)わずか2ヵ月半でパッドの吸収量が いっぱいになったわけを 説明できないのです。そもそも パッドを交換するのは 初めてだと言っていました(次回に来た別の修理員もそうです)。

 もっと驚いたのは、エプソンのプリンターというのは 保障期間が1年ではなく、わずか 半年であって、その 保障期間が過ぎたら、この「廃インク・パッド交換の出張修理サービス」は 有料だというのです。それは いくらなのかと修理員に尋くと、出張費と技術料と部品代を合わせて2万5千円だというのです!! 機械が故障したわけでもなく、ユーザーの使い方が 悪いわけでもないのに、この「廃インク・パッド」が一杯になる度に、2万5千円を払って 新しいパッドに交換しに来てもらわねばならない、というのです!! 絶句です。

 その 10日後の 5月 19日に、またしても「廃インク・パッドの吸収量が 限界に達して」しまったのです。これは、あまりにおかしいと、交換に来た修理員と、パッドやインクの 重さを量ってみました。まず 新品インクの重さを量ると 4色セット1箱のインクの正味量は 60グラムです。そして廃インク・パッドは、限界まで吸収したインクの正味量が 335グラムですから、何と4色セットの 5.5箱分にも なるのです。この時に 修理員がプリンターにノート・パソコンをつないで出したデータでは、それまでの4色のインク交換回数が 14回と出ましたので、私が買って 使い切ったエプソン・インクは、4色セット 14箱分となるので、廃インク 5.5箱というのは、その4割ということになります。

 その後も 廃インク・パッド交換になる度に データを記録し、パッドの重さを量ってきましたので、もっと正確な割合が 解るようになりました。何と、驚くなかれ、買って使ったインクの 55パーセントが、印刷には使われずに、無駄に廃インク・パッドに捨てられてきたのです。一度に どっと棄てられるわけではありませんから、毎日毎日、プリンターを使うごとに、インクの半分が、どういうルートでか、廃インク・パッドに捨てられていくのです。

エプソンのインクの重さと、廃インク・パッドの重さ

 先述のように、日本では プリンター・メーカーは、機械の値段は安くしておいて、高価なインクを買わせて 儲けるシステムになっています。エプソンは、それを さらに悪用して、インクの半分を ドブに捨てさせて、「○ 色のインクがなくなったので取り替えてください」というような表示を出して、どんどん 新しいインクを買わせるのです。すさまじい 悪徳商法です。
 このことが 今まで知られなかったのは、普通の人は プリンターを買っても、実際に使う回数は わずかなので、廃インク・パッドが 満杯になるのは、数年後の、プリンターの買い替えの頃だからです。おそらく、廃インク・パッドなるものがあることさえ、知らない人が ほとんどでしょう(私も 知りませんでした)。たくさん コピーをとるような会社も、担当者が インク代を会社に経費として請求するだけなので、こんなシステムになっている ということには気づかないわけです。
 ところが 私は、『イスラーム建築』50冊を作るために、短期間で 数千枚の A3コピーをとったために、次から次と 廃インク・パッドの吸収量が限界になり、この あくどい商法を知ってしまったのです。

 その9日後の5月 28日には3回目の「廃インク・パッドの吸収量が限界」となり、さらにその8日後の6月5日には4回目の「限界」となりました。その4回目に、エプソンの修理センターに 廃インク・パッド交換依頼の電話をした時、エプソンの 山田氏と話した内容が 電話機に録音されています。ここに入れておきますので、お聴きください(録音時間制限で切れますが)。
 私が エプソンの悪徳商法を説明している間、山田氏は 何ら否定していません。初めて知って 驚いたことでしょう(この時には、私は まだ、捨てられるインクの量は4割だと思っていました)。

● 6月5日、エプソン修理窓口の 山田氏との電話 18分
(Fire Fox や Opera のブラウザーでは 再生されません)


 ところがこの日、エプソンは パッドの交換に来ないのです。その後 何度も修理センターに電話をし、山田氏にも催促し、住吉という人にも事情を話して 早く交換に来て 機械を使えるようにしてほしいと依頼しましたが、「調べて電話する」などと言いながら、何の連絡も よこしません。この日は とうとう 修理員は来ずじまいでした。
 翌日は 朝から電話をして、竹内さん、山田氏、鵜飼さん、室山氏と、催促しましたが、まったく交換に来ないので、機械が使えず、印刷ストップの状態に置かれたままです。機械を買った ビック・カメラの担当者にも相談し、販売側からも、何度も エプソンに催促してもらいましたが、廃インク・パッドの交換に 来ません。

 夜になって、エプソンの 有賀課長というのが 電話をよこして、機械を引き渡す と約束しなければ、パッドの交換は しない と言います。つまり、悪事が露見してしまったので、少なくとも 私のところの機械を取り戻して 処分してしまおう というわけです。私は、少なくとも 今までの損害分を 弁償してくれないことには、証拠物件の引き渡しには 応じない と主張していたので、ついに 彼は、保障期間内であっても、お金(2万5千円)を払わなければ パッドを交換しない、とまで 言い出す始末です。機械を使えなくして 困らせて、証拠物件を回収しよう という魂胆です。

● エプソンの 有賀昭彦課長からの電話 16分
(保証期間中であっても、金 (2.5万円) を 払わなければ、廃パッドを
交換せずに、 コピー機を使えないままにしてやる、という 脅し)


 メーカーが ユーザーに物を売りつけておいて、それを使えなくさせる というのは、よほどの悪徳メーカーでなければ 為しえない、常軌を逸した暴挙です。エプソンというのは、前身は 時計メーカーのセイコーだと言います。私の世代では、時計のセイコーといえば 世界に はばたく一流企業 というイメージを持っていますが、エプソンになって、ここまで堕落したかと 驚くばかりです。(有賀課長の言は 彼の独断ではなく、社長命令の行動だと思われます。)

 そのあと、ビック・カメラからの催促が 功を奏したのか、夜の9時になって、下請けの修理会社の修理員が、やっと 廃インク・パッドの交換に来ました。その後は5回目(7月13日)、6回目(7月23日)と交換しましたが、4回目の時のような 気違いじみた対応は ありません。しかし、私が いくら修理員に、買ったインクの半分もが 捨てられていく理由の説明を求めても、彼らは、エプソンに問い合わせているが、未だに回答がない と言い張るばかりで、何の説明もできません(こんな悪徳商法の説明の、しようもないでしょうが)。



 エプソンが このような悪徳商法を はたらいていなければ、『イスラーム建築』の印刷のために購入するインク量は 半分で済んだことでしょうし、本の頒価も、8,000円以下にすることが できたことと思います。

(2014/ 07/06)




 このあとのエプソンの対応について、「古書の愉しみ」第 27回の『武士道』(10月3日)およびHPの「お知らせ」欄の11月1日のページに若干を書きましたので、それらを ここに再録しておきます。

 上記のように、『イスラーム建築』の印刷のために買ったエプソンのプリンターにおいて、インクに関するエプソンの悪徳商法のために、ひどい目にあいました。買ったインクの半分が、印刷に使われずに「廃インク吸収パッド」に捨てられて、どんどん新しいインク・カートリッジを買わされるのです。(限定 100部を印刷するために、全部で 50万円インクを買ったうち、半分の 25万円分は、ドブに捨てられたことになります。廃インク吸収パッドが 何と10回も満杯になり、その都度 未吸収のものに交換したのです。)そのために、本の頒価も高くなってしまいました。

 100冊の印刷が終わった8月初旬以降は、このプリンターをほとんど使っていませんが、それまでは「廃インク吸収パッド」の交換をするたびに、インクを印刷に使わずに捨てる理由を説明するようエプソンに求め続けました。しかし エプソンの社員は誰一人としてそれを説明せず(できず)、現在調査中であるとか問い合わせ中であるとか言い逃れをして、現在に至るまで、一切の説明をしていません(金もうけのために、消費者をだましてインクを捨てさせ、新しいインクを ジャンジャン買わせるためだ、などとは白状できず、さりとて、もっともらしい嘘の説明をでっちあげることもできないわけです)。

 私に問い詰められた一人一人の社員は、心の中では これが会社の悪事だと知っても、会社を告発することはできず、会社をかばうために 自分の良心を犠牲にして、嘘をつき続けるわけです。これが会社への「忠」であり、封建時代のサムライの立場と似たようなものであって、これが「武士道」の倫理の成れの果てかと思うと、何ともやりきれません。

 エプソンの対応のいくつかは、上の 私家版『イスラーム建築』」のページに載せましたが、大岩根 という社員は、「廃インク吸収パッド」を2〜3回交換した頃に電話をしてきて、自分がこの件の責任者だから、損害を弁償するなり何なり、自分が責任をもって解決する、と大見得をきっておきながら、上司に一喝されるや、結局何もせずに、説明責任からも逃げ回っていました。こちらは 100部の印刷がすべて終わって、「廃インク吸収パッド」の交換をすることもなくなり、エプソンの下請けの修理員も来なくなったので、もう 何も言わずにいました。

 すると1週間ばかりたった頃に、エプソンの代理人たる「国広総合法律事務所」の 中村 という弁護士から郵便がきて、私からの苦情で エプソンの担当者(大岩根)が「深刻な精神的打撃を被っている」ので、私からエプソンへは一切直接連絡をしないよう、「本件に関して通知、連絡、申し出等がある場合には、当職らに対し 書面をもって行うように」と言ってきました。そして、「本件に関しましては、現在、通知人(エプソン)において解析作業を進めているところであり、解析作業が得られた時点で、貴殿宛に書面にて回答いたしますので、今暫くお待ちいただきたい」と書いていますが、この通知が来たのは8月1日です。それから2ヵ月以上、書面どころか、ウンともスーとも言ってきません(そもそも、解析することなど 何もありません)。それ以前の2ヵ月も合わせて 4か月もの間、いったい なぜインクの半分も無駄に捨てるのか、というユーザー(消費者)の問いかけに 一切答えないまま、担当者は回答要求に応じられずに ノイローゼになっている、というわけです。これが「武士道」の現代版たる「会社人間道」だと思うと、ほとほと 愛想が尽きます。

(2014/10/03)

エプソン

●● エプソンの代理人たる 国広綜合法律事務所中村弁護士 から 10月22日に、2回目の郵便がきました。 エプソンによる 「調査報告書」 と称する2枚の紙を送ってきたのです。 上記のように、エプソンが一向に 「解析作業」 の結果の 「書面」 を送ってきていない ということを知って、それでは 弁護士が 嘘をついたことになるので、急遽 エプソンに書かせて、弁護士サイドから送ってきたわけです。 ところが その内容たるや、私のエプソン・プリンターと同程度の使い方を エプソン社内でしてみたら、確かに たくさんのインクが 「廃インク・パッド」 に捨てられることを確認したので、私のものは故障ではなく 正常だ、というのです。 当たり前じゃないか。 そのように 悪事をはたらくよう 設計されているのだから。 なぜ インクの半分も、印刷に使わずに 無駄に捨てるのか、という 最初からの問いには まったく答えない(答えられない)わけです。 これが、5ヵ月も 費やした 「解析作業」 の結果だとは、滑稽 というほかは ありません。 説明責任 も果たさずに こんなものを送ってくるとは、日本の 弁護士 も 地に堕ちたものです。(正義と人権を守るという 弁護士のプロフェッション は どこに行ったのか?)

( 2014 /11/ 01 )


 このあとは何の連絡もなく、購入したインクの半分を 廃インクパッドに棄てる理由は、未だに まったく説明しません(できません)。悪徳メーカー悪徳弁護士 と言われても しょうがないでしょう。

< 本の仕様 >
私家版 『イスラーム建築 その魅力と特質』 2006年執筆、2014年 7月発行、頒価:10,000円。
  著 者:神谷武夫
  撮影者:神谷武夫
  編集者:三宅恒太郎
  造本者:鈴木一誌
  出版者:神谷武夫 〒114-0023 東京都北区滝野川 3-1-8 -506、TEL: 03-3949-9409
20.5cm × 20.5cm × 2.5cm、800g、210ページ(内、カラー93ページ)ハードカバー上製本。
紺色の布装、背にタイトルを金文字箔押し、表紙に原ジャケットの縮小写真貼付。
書店には置いていません。 購入ご希望の方は、神谷まで メールでご連絡ください。

● 現在は、もう 頒布用は ありません。 保存用の6冊を 残すのみです。



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