アンコール王朝の建築 |
2月に カンボジアに行ってきました。初めてインドに行った 1976年、飛行機代を安くあげるために、タイのエア・サイアム(翌年破産して 消失してしまった、格安の航空会社)で バンコクまで行き、そこから カルカッタへの往復切符を安く買いました。この乗り換えついでに タイを旅行したので、カンボジアにも行って アンコール・ワットを見て来ようと思いましたが、その前年に ヴェトナム戦争は終結していたものの、この年 カンボジアはクメール・ルージュの支配下となり、内戦はさらに拡大していて、とても旅行者が入国できる状態では ありませんでした。 その後も インドに行くたびに、カンボジアに寄れないかと調べたのですが、内戦は延々と続き、アンコール・ワットを見に行くことは かないませんでした。結局、内戦は 20年も続き、終結したのは 1991年のことです。その後平和になったといっても、戦中に 膨大な数の地雷が国中に埋められたために、自由な旅行もできず、アンコール遺跡を訪ねるのも危険で、一向に 撮影旅行ができるようには なりませんでした。その一方で、特に有名なところだけが 観光できるようになると、今度は そこへ大量の観光客が押し寄せるようになり、また行く気が 失せてしまいました。
![]() そのうちに 私の方はインド建築の調査と撮影が ひととおり終って、本も出版すると(1996年)、撮影旅行の行先はインド圏からイスラーム圏へと シフトして行きましたので、カンボジアのことは、ほとんど忘れしまった というわけです。しかし、イスラーム圏の未訪地も 次第に少なくなってきて、しかも 未訪のイラクとアフガニスタンは いまだに安全にならないので、ふと、今のうちに アンコール建築を撮影してこよう、という気になったのです。
調べてみると、カンボジアの歴史的建築というのは、ほとんどが アンコール朝(9世紀〜15世紀)のものであり、その大多数が カンボジア北部のシェム・リアプ市周辺に集中していることが わかりましたので、首都プノンペンは省略して、もっぱらシェム・リアプに滞在して、毎朝 トゥクトゥク(インドのオート・リキシャに相当しますが、もっと大きく、乗り心地も良い)を雇って、遺跡を見てまわりました。 ![]() (From "A History of Indian and Eastern Architecture" 1876, London)
アンコール建築で見るべきものは、ほとんどが 仏教とヒンドゥ教の寺院であって、インド建築の原理が基本となっています。インドとの大きな違いは、環濠
(かんごう)まで含めた「外構」というか、「地域計画」としての寺院構成が、インドよりも はるかに雄大で、しかも幾何学的に 整然としていることです。そのプランは 仏教のマンダラに似ているとも言えますが、本堂を「四面堂」とするために、インドのヒンドゥ寺院と違って、四方に伸び広がるプランを可能とした、ということは、かつて、このサイトにも載せている『ジャイナ教の建築』の 第6章 「ラーナクプルのアーディナータ寺院」で詳しく論じたところです。 またアンコール建築は「シカラ」というべき祠堂の塔(プラサート)の形に発展がなく、どれも皆同じような単純な形をしています。その点で、インドのヒンドゥ寺院建築における ヴィマーナ(本堂)の多様性に 遠く及ばないと言うべきでしょう。アンコール建築というのは、広大なインドの中の、ある一つのエリア(たとえばオリッサ地方、あるいはタミル地方)の建築文化に相当するもの、と言うことができます。 ただし 先述のように、幾重にも回廊と環濠で囲んで、雄大な地域計画 としての寺院構成を展開した という点においては、はるかに インド建築を凌ぎます(インドネシアのボロブドゥールなども そうですが)。
以下の写真ギャラリーで、主要な寺院に 平面図を添えましたが、赤い中軸線は、筆者が書き加えたものです。バンテアイ・スレイ寺院では、本堂が インドのヒンドゥ寺院と同じく 前面にのみ開かれていますので、伽藍は一方向にのみ 延びていますが、他の寺院では、本堂が インドのジャイナ寺院のように 「 四面堂」(チャトルムカ堂)なので、伽藍が四方に延び広がって、マンダラのようなプラン となっている ことを 示しています。 ![]() (From "Angkor Vat Description Graphique du Temple", 1969, Paris) 今回の「写真ギャラリー」は、アンコールの すべての寺院を紹介するものではなく、ざっと見ていって、気に入ったものをピックアップして、時代順も加味しながら いくつかの区域に分けて配列したものです。私の「アンコール建築行脚」の簡単な報告として、お楽しみください。
( 2012 /03/ 01 ) |
ROLLUOS Preah Ko & Bakong KOMPONG KDEI Bridge at Spean Praptus BANTEAY SREI
バンテアイ・スレイ 平面図 PREAH KHAN
Baksei Chamkrong PHNOM BAKHENG ANGKOR VAT
アンコール・ワット 平面図 Gate of Victory PREAH PITHU Prasat Suor Prat Elephant & Leper King Terraces PHIMEANAKAS BAPHUON BAYON
バイヨン 第2次平面図
THOMMANON CHAU SAY TEVODA TA KEV TA PROHM
タ・プローム 平面図 BANTEAY KDEI PRASAT KRAVAN EAST MEBON BANTEAY SAMRE
バンテアイ・サムレ 平面図
SIEM REAP & a Hotel
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