『 モロツコの建築装飾 』 |
神谷武夫
今回の「古書の愉しみ」第48回で紹介する『 モロッコの建築装飾 』は 今から35年前の出版なので、それほどの古書ではありません。しかし有用な書であるにもかかわらず 入手困難になっているので、採りあげることにしました。イスラーム建築の仕上げや装飾、その技法について知りたい人には 必須の本だからです。モロッコについてカラー写真満載の本はたくさん出版されていますが、そのほとんどは単なるコーヒー・テーブル・ブックであって、建築家として感心するようなものは ほとんどありません。その中で この『 モロッコの建築装飾 』だけは、専門家にも一般の方にもお勧めできる 立派な書物です。
モロッコの建築工芸というのが、いかに繊細で美しいものか(ウェブ上で解像度が低い図版なので、十分とはいえませんが)わかるでしょう。こうした建築装飾がいかに作られるものかを、単に最終結果だけでなく そのプロセスを、大量のカラー写真を用いて 微に入り細を穿って描き出したのが この本です。
原題は "LE MAROC ET L'ARTISANAT TRADITIONEL ISLAMIQUE DANS L'ARCHITECTURE" なので「モロッコと、建築におけるイスラームの伝統的職人芸」といった意味ですが、本稿では端的に『 モロッコの建築装飾 』としておきます。私が翻訳出版するとしたら、こういう邦題にしたであろうし、イスラーム建築における伝統的職人芸は 現代までも続いていて、宗教建築ばかりでなく、現代の王家の廟から 銀行建築にまで適用されているからです。 これは モロッコの建築工芸を調査した 貴重かつ大部の書で、仏 アカデミー・フランセーズの金メダルを受賞しました。 イスラームの建築装飾を 詳細かつ立体的に紹介した空前絶後の書で、技法や材料ごとに、現代まで続く生きた建築装飾を、カラー写真を駆使して各工芸家の製作プロセスを追いながら詳細に示しています。 イスラーム美術愛好者の垂涎の書です。 本文はフランス語ですが、英訳版もあります。英語版は 1980年に メアリ・グッゲンハイムの訳で, "Traditional Islamic Craft in Moroccan Archirtecture" 「モロッコ建築における伝統的イスラーム工芸」という題で 一度だけ出版されました。イギリスやアメリカの出版社が大々的に出したわけではなく、もとのフランスの「アトリエ74」が出しただけのようなので、これも入手困難になっているようです。
そもそもは アンドレ・パッカール (1929-1995) という、フランスのアヌシーで生まれた室内装飾家がイスラームの建築工芸に惚れ込み、1973年に かつてフランスの保護領だったモロッコ王国の首都ラバトに渡りました。フランスとモロッコに橋を架けるような貿易と室内装飾の仕事を長年続け、フランスの建築家 ジャン・バチスト・バリアンの協力も得、次第に現地の工芸家を雇って王宮の修復工事などもするようになり、国王をはじめとする王室の人たちの知遇を得ました。本国のアヌシーでも「アトリエ74」という工房を経営して100人規模の従業員を雇っていたといいます。
『 モロッコの建築装飾 』第1巻のダスト・ジャケット、1983年版
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、13、23ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、71ー72ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、160ー161ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、242ー243ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、244ー245ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、280ー281ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、328ー329ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、346ー347ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、354ー355ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、356ー357ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、384ー385ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、402ー403ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、432ー433ページ
『 モロッコの建築装飾 』第1巻、432ー433ページ
第1巻はここで終りますが、ここが全体の切れ目というわけではなく、内容的には第2巻にこのまま続いています。全体があまりに長いので、ちょうど半分で2冊に分けたという感じです。
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、14ー15ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、24, 54ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、32ー33ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、74, 61ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、130ー131ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、162ー163ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、220ー221ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、248, 227ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、328ー329ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、358ー359ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、358ー359ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、446ー447ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、458ー459ページ
『 モロッコの建築装飾 』第2巻、482ー483ページ
『モロッコの建築装飾』の初版(1980年版)は、私の所有する第4版とはジャケットのデザインが違っていました。第1巻がタイル・モザイクの幾何学パターンで、第2巻は木彫のムカルナスに彩色したものです。英語版のジャケットもこれと同じ装幀です。1982年の第3版でデザインを変更し、第4版はそれを踏襲しました。どちらが良いかは好みの問題で、たいした差はないと言えます。内容自体もまったく変更が無かったようなので、版による選択の意味はありません。
それよりも、ずっと後になって知ったのですが、第4版を出版した時に 50部限定の豪華版を作たようです。牛革装で、表紙は写真を使うのではなく、革のモザイクで幾何学パターンをつくり、上部には天金をほどこしていたようです。普通の版もオールカラーの大部の書で高価なのに、さらに豪華な造本にしたのでは、かなり高額になったことでしょう。魅力的ではありますが、大枚をはたいて入手しようとは思わない次第です。おそらく 王室関係者などへの 贈呈用だったのではないかと思います。
『 モロッコの建築装飾 』50部限定の豪華版(ウェブサイトより)
なお モロッコの建築作品としては、「イスラーム建築の名作」のサイトで ( 2019 /07/ 01 )
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