パリサイの学者

 何年か前に、東大名誉教授で 学士院会員という学者から 電話をもらったことがある。といっても こちらの留守番電話にメッセージがはいっていて、自分のところに電話せよ というのである。 その人と面識はなかったが、言われるままに電話をすると、誰かから私の評判をきいたので 電話をしたのだという。 そして、えんえんと1時間近く、その人の若い頃からの 自慢話を聞かされた(その市外通話料金は、全部 私の支払いである)。そして、自分も もう歳なので、私に本をあげようと思うので、一度 自分の家を訪ねて来るように という。それでは 私も著書を差し上げたいので、ご挨拶に伺いますと、1週間後の日取りを決めて、住所や交通機関などを 教えてもらった。そこで、早速 その人に贈呈する本を用意したり、雑誌の記事のコピーをしたり、その人の住所を インターネット上の地図で確認したりしていた。
 ところが、その3日後に その人から また電話があり、この前の話はキャンセルしたいので、訪ねてくるには及ばない と言う! そのうちに 改めて自分から電話をするから、と言いながら、その後は一切 音沙汰なしである。学士院会員ともなると、民間の研究者を こんなにも愚弄して 平気でいられるのだろうか? それまで 何の面識もない私に、一体なんの恨みがある というのだろうか? こういう人は、相手が大学教授であれば こんな無礼なまねは しないのだろう。人を肩書きや身分で差別し、地位の上の人間には 腰をかがめ、そうでない人間には 横柄な態度をとるのだろう。たとえ、どこかから 圧力がかかったのであれ、こういう人を「パリサイの学者」と呼ぶのでは ないだろうか。

( 2003 /10/ 26 )

(この人は それから一切 連絡なしに、2008年(平成20)に死去したという)


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