BOOKS on ARMENIAN ARCHITECTURE - I

ミラノ工科大学建築学部 +
アルメニア共和国科学アカデミー編

『 アルメニア建築 ドキメント 』

Faculty of Architecture of the Milan Polytecnic &
Academy of Sciences of the Republic of Armenia
DOCUMENTS OF ARMENIAN ARCHITECTURE
23 volumes, 1968-98, OEMME Edizioni, Venezia


神谷武夫

”Documents of Armenian Architecture"


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 アルメニア建築に関する本はずいぶんと多い。その言語は、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、アルメニア語と幅広いので、一人の学者が 主要な本すべてに目を通すのは不可能に近い。アルメニア人はユダヤ人と同じように離散の民(ディアスポラ)となり、世界各地に散っている。特にフランスとアメリカに多いと言われているが、意外なことに アメリカで出版されたアルメニア建築の本は、あまり多くない。さらに意外なことは、イタリアで重要な本が 多く出版されていることである。このサイトの、アルメニア建築の本を紹介するシリーズで、今回 第1回として採りあげるのも イタリアの本で、ミラノ工科大学建築学部 とアルメニア共和国科学アカデミーの、30年にわたる 共同調査研究の報告書(ドキュメント)シリーズである。

『アルメニア建築ドキュメント』第 13巻 ハガルツィン

  1968年に第1巻『ハグパト』が出てからちょうど 30年後の 1998年に最終巻の『ヴァガルシャパト』の刊行まで、全部で 23巻を出したので、1〜2年に1冊 ずつ出していたことになる。大判の正方形の判型で、カラー写真満載なので、ほとんど写真集のように見えるが、各巻にイタリア人とアルメニア人の研究者が概要を記し、論を展開する学術書である。最も目を見張らせるのは実測図で、大判の誌面いっぱいに(時には折りたたみで)大きな美しいインキング図面が掲載されている。といっても基本的には すべて一般図であって、詳細図は ほとんど無いが、それでも こうした正確な図面が たっぷり収録された建築書は、ほとんどが未知の建物であっただけに、たいへん貴重である。


 写真の撮影も おおむね優秀で、こちらは微に入り細を穿って、個々の建物を 実にていねいに紹介している。10巻目が出た時に、それまでの10冊を収納する 黒い布装の箱が、それまでの購読者にサービスとして配られた。私も1個を、当時の美術・建築書輸入店の東光堂書店を通じてプレゼントされた。20冊目の時には そうした箱は作られなかったようだ。最終巻の『ヴァガルシャパト』のみ、ごく柔らかい紙の函が付いている(柔らかすぎて、あまり実用的ではないが)。

第1〜10巻と 第23巻は 黒い函に入っている。

 テキストは イタリア語と英語とアルメニア語の3ヵ国語表記である。第17巻まではイタリア語が大きく 英語が小さく、同一ページに並べられていたが、第18巻からは逆転して、学術的な書物は英語が世界語になってしまったのに合わせて、英語の方が大きくなった。アルメニア語は、常に巻末に 単独で置かれている。執筆者は多岐にわたり、長年月だったので、総勢で30人に及ぶ(英語はもちろん、アルメニア語かイタリア語のどちらかは 翻訳である)。
 ヴィジュアルな建築調査報告書としては、理想的な出版物だと思う。アルメニア建築に深い興味を抱いた人は、このシリーズの本を1冊でも多く買い揃えることを お勧めする。    (2014 /01/ 01)



Documents of Armenian Architecture, No.1
ハグパト

ハグパト

第3版 1974年 (初版は 1968年)、27×27cm、63ページ(図面 11ページ分)
アルメニア北部のハグパト修道院について、ステファン・ムナツァカニアンとアドリアーノ・アルパゴ・ノヴェッロによる概要と、写真、実測図。


  Documents of Armenian Architecture, No.2
ハチカル

ハチュカル

第3版 1977年(初版は 1969年)、27×27cm、75ページ
アルメニア独自の十字架石(ハチュカル)について、レヴォン・アザリアンとアルメン・マヌキアンが、各地の実例写真に基づきながら解説する。図面なし。


Documents of Armenian Architecture, No.3
サナヒン

サナヒン

第2版 1980年(初版は 1970年)、27×27cm、71ページ(図面 10ページ分)
アルメニア北部のサナヒン修道院について、O.Kh.ガルパフチアンとアドリアーノ・アルパゴ・ノヴェッロによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.4
聖タデウス・ヴンク

聖タデウス

第2版 1974年 (初版は 1971年)、27×27cm、71ページ(図面 9ページ分)
イラン北西部(アゼルヴァイジャン地方)の聖タデウス修道院の遺跡について、ヴォルフラム・クライスとフシャン・セイフンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.5
アンベルド

アンベルド

第2版 1978年(初版は 1972年)、27×27cm、55ページ(図面 7ページ分)
アルメニア西部のアンベルド城塞と、カテドラルについて、ニコライ・M・トカルスキーとアドリアーノ・アルパゴ・ノヴェッロによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.6
ゲガルド

ゲガルド

第2版 1978年(初版は 1972年)、27×27cm、73ページ(図面 21ページ分)
アルメニア中部のゲガルド修道院について、アレクサンドル・サヒニアンとアルメン・マヌキアンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.7
ゴシンク

ゴシャ・ヴァンク

1974年(第2版は 1982年)、27×27cm、57ページ(図面 11ページ分)
アルメニア北部のゴシャ修道院についてアルメン・ザリアンとヘルマン・ヴァフラミアンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.8
アフタマール

アフタマール

1974年、27×27cm、113ページ(図面 9ページ分)
トルコ東部、ヴァン湖のアフタマール島に残る聖十字架聖堂遺跡について、ヘルマン・ヴァフラミアンと、シラルピ・デル・ネルセシアンによる概要と、年譜、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.9
レルーク

アフタマール

1977年、27×27cm、71ページ(図面 9ページ分)
アルメニア西部、アニペンザのイェレルーク・バシリカ遺跡について、パスカル・パブジアンとアドリアーノ・アルパゴ・ノヴェッロによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.10
聖ステフノス

イェレルーク

1980年、27×27cm、71ページ(図面 9ページ分)
イラン北西部(アゼルヴァイジャン地方)の聖ステファノス修道院遺跡について、ハトムート・ホッフリヒターとガブリエッラ・ウルホギアンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.11
ケチリス

ケチャリス

1982年、27×27cm、59ページ(図面 7ページ分)
アルメニア中部、ツァグカゾールのケチャリス修道院について、ムラド・ハスラティアンとアドリアーノ・アルパゴ・ノヴェッロによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.12
アニ

アニ

1984年、27×27cm、103ページ。
アルメニアとの国境沿いのトルコ東部に残る、かつての首都アニの遺跡について、パオロ・クネーオ、アルメン・ザリアン、ガブリエッラ・ウルホギアン、N・チエリーとジャン・ミシェル・チエリーによる概要と、写真。ソ連との国境地域での実測作業は困難(危険)だったのか、図面は あまりない。


Documents of Armenian Architecture, No.13
ハガルツ

ハガルツイン

1984年、27×27cm、59ページ(図面 7ページ分)
アルメニア北部のハガルツィン修道院について、アルメン・ザリアンとアルメン・マヌキアンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.14
アマグ・ノラヴンク

アマグ

1985年、27×27cm、63ページ(図面 9ページ分)
アルメニア南部の アマグ村の近くにあるノラ修道院について、アドリアーノ・アルパゴ・ノヴェッロとジュリオ・イェーニによる概要と、写真、実測図。頂部の鐘楼がまだ再建されていなかった。


Documents of Armenian Architecture, No.15
カサグ川流域のヴンク

カサヒ

1986年、27×27cm、75ページ(図面 15ページ分)
アルメニア西部のカサグ川流域にあるホヴハナ修道院とサグモサ修道院について、アレクサンドル・L・ヤコブスン、カロ・ガファダリアンとジョヴァンニ・クラトーラによる概要と、写真、実測図。Vanker は Vank の複数形。


Documents of Armenian Architecture, No.16
プトグニアル

アルッチ

1986年、27×27cm、75ページ(図面 11ページ分)
アルメニア西部、プトゥグニの聖堂遺跡とアルッチ(タリッシュ)の聖堂遺跡のほかに、ホール型の聖堂を集成している。フランチェスコ・ガンドルフォとアルメン・ザリアンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.17
ガンザサール

ガンザサール

1987年、27×27cm、67ページ(図面 4ページ分)
ナゴルノ・カラバフのガンザサール修道院について、バグラト・ウルバビバグラト・ウルバビアンとムラード・ハスラティアンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.18
セヴ

   セヴァン

1987年、27×27cm、87ページ(図面 8ページ分)
アルメニア中部のセヴァン湖に面するセヴァン修道院について、ステパン・ムナツァカニアンによる概要と、写真、実測図。他にゲガルクニク県の小聖堂を集成する。


Documents of Armenian Architecture, No.19
カラバフ

カラバフ

1988年、27×27cm、109ページ
ナゴルノ・カラバフの村と橋、そして聖堂を総覧する。セトラグ・マヌキアン、マリア・アデライーデ・ララ・コムネーノとパオロ・クネーオによる概要と、写真。図面は平面図のみ。


Documents of Armenian Architecture, No.20
ソルフル

ソルフル

1989年、 27×27cm、111ページ(図面 5ページ分)
イランの北西部(アゼルヴァイジャン地方)のソルフルに残るレンガ造の聖堂および、アゼルヴァイジャン地方の諸聖堂を総覧する。アドリアーノ・アルパゴ・ノヴェッロによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.21
ノール・ジルフ

ニュージュルファ

1992年、 27×27cm、123ページ(図面 17ページ分)
イランのイスファハーンにあるニュー・ジュルファ地区(アルメニア人地区)に残る、イラン型のレンガ造の諸聖堂を総覧する。アルメン・ハフナザリアンとヴァハン・メフラビアンによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.22
マカラヴンク

マカラヴァンク

1994年 27×27cm、63ページ(図面 9ページ分)
アルメニア北部のマカラ修道院について、ヴァラザト・ハルチュニアンとフランチェスコ・ガンドルフォによる概要と、写真、実測図。


Documents of Armenian Architecture, No.23
ヴァガルシパト

ヴ<font size=2>ァ</font>ガルシャパト

1998年(最終巻)27×27cm、155ページ(図面 14ページ分)
アルメニア中部のヴァガルシャパトの、エチミアジン大聖堂をはじめとする諸聖堂を総覧する。アルメン・ザリアン、アラ・ザリアンとアナヒデ・テル・ミナシアンによる概要と、写真、実測図。最もページ数の多い巻。

  slipcase
『アルメニア建築ドキュメント』第 23巻「ヴァガルシャパト」 の函
シリーズの最終巻を記念してか、この巻にのみ ソフトな紙の函が付いている。





< 本の仕様 >

”アルメニア建築ドキュメント DOCUMENTI DI ARCHITETTURA ARMENA"
ミラノ工科大学建築学部 + アルメニア科学アカデミーの編著、
全23巻、1968〜1998年、ヴェネツィア、OEMME社
正方形サイズ、27cm x 27cm x 0.5〜1cm、各 50〜150ページ
ソフト・カヴァー、折り返し表紙、各巻 豊富にカラー写真と実測図を載せる。


『 アルメニア建築ドキュメント 』第1〜10巻と 布装の函




ストジゴフスキの『アルメニアとヨーロッパの建築芸術 』をはじめとする、
アルメニアとジョージアの美術・建築を扱った 20世紀の出版については、
ウェブサイト『神谷武夫とインドの建築』の中の「古書の愉しみ」の
第49回、『ジョージアの美術と建築』のページをご覧ください。

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