GALLERY of WORLD ARCHITECTURE
モンレアーレ(イタリア)
ドゥオモ (カテドラル)
神谷武夫
モンレアーレ
モンレアーレのドゥオモ(カテドラル)

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シチリア島の ロマネスク

 映画「ゴッドファーザー」以来、シチリア島というと マフィアを連想する人が多くなってしまったが、マフィアが起こるよりもずっと昔の 12世紀、地中海のこの島には、他のヨーロッパ諸国とはずいぶんと趣きの異なった、壮麗なロマネスク建築と美術が開花していた。
 首都のパレルモをはじめとして、島の各地にロマネスクの聖堂が残るが、とりわけモンレアーレのカテドラル(ドゥオモ)と その脇のクロイスターは、訪れる人を驚嘆させる。実に華やかなのである。

モザイクで飾られたアーケードと内壁

 11、12世紀にヨーロッパ中に広まったロマネスク様式は、厚い石の壁に囲まれた ほの暗い内部空間をなし、人を深い瞑想的な気分に導く。ところがモンレアーレのカテドラル、サンタ・マリア・ラ・ヌオーヴァは、大空間の隅から隅まで金地のモザイクで覆われ、主身廊には旧約聖書から、側廊には新約聖書からの諸場面が描かれ、アプスには聖母子やパントクラトール(全能者キリスト)がアップで描かれ、まことに壮観である。
 これほど華やかなロマネスク建築は シチリア以外では見ることがないが、しかしこうしたモザイクの技法というのは、東方のビザンチン世界で発展したものである。ヴェネツィアのサン・マルコ聖堂などもモザイクの壁画で名高いが、それらはギリシア十字の平面(プラン)からも、ビザンチン建築に分類される。


ドゥオモと修道院の平面図
(大系世界の美術 第11巻 ロマネスク美術、1972 学研 より)

 それに対してモンレアーレの聖堂は、基本的にロマネスクの バシリカ式のプランであり、大きなトランセプト(翼廊)を備えることから、ラテン十字の長大な奥行きをもつ。
 つまり、この聖堂はロマネスクとビザンチンの合体したものといえるが、さらに見れば 木造天井の彩色模様や、随所に現れるアラベスク、大理石による腰壁の羽目板、そして後陣外観の 交差アーチを重ねた装飾など、イスラム建築の影響が濃厚であることがわかる。決定的なのは、この建物のいたる所に用いられているアーチが、すべてイスラムの尖頭アーチ形をしていることである。

 これほどにさまざまな文化の集合した建築がなぜ生まれたのか、そしてそれが「シチリア・ノルマン様式」と呼ばれるのはなぜなのか。それを知るには、シチリア島の複雑な歴史に分け入り、またその地理的な条件を眺める必要がある。

ドゥオモのアプス(後陣)を小路から見る


諸文明の交差する島

 現代では 地中海の北側はキリスト教世界、南側はイスラム世界ということになっているが、かつては両者が相手方に浸透しあったことから、文化的な混交も行われた。まず中東のシリアは両宗教の揺籃の地であるから、両者のあいだには 文化の継承や反発があった。西端部ではモロッコから目と鼻の先のスペインが混交地で、イスラム建築のアルハンブラ宮殿やコルドバのモスクが キリスト教建築と共存している。
 そして地中海の中央部には、イタリアとチュニジアに橋を架けるように、このシチリア島が横たわっている。そこは東方キリスト教(ビザンチン)と西方キリスト教(ロマネスク)とのせめぎあいの場所でもあった。

 歴史的には 6世紀にビザンチン帝国の領土となったから、今は残っていないが、多くのビザンチン聖堂が建てられていた。次いでアラブ帝国のアッバース朝は9世紀にこの島を征服し、11世紀まで支配して イスラム文化を広めた。しかし 11世紀後半にイスラム支配層が弱体化すると、北のノルマン人がこの地を征服して、ローマ・カトリックへと転換したのである。

   
キオストロ(クロイスター)の柱列とモザイクの詳細

 そのシチリア王国を絶頂に導いたグリエルモ2世が、自己の権威を確立するために、この地の文化の粋を結集して 1174年から建設させたのが、このドゥオモである。
 当時は国民にイスラム教徒も多く、またビザンチンの伝統も続いていたから、基本的に ローマ・カトリックのプランに則りながら、イスラム建築の装飾法や尖頭アーチを採り入れ、内部はビザンチンのモザイクで華々しく飾った。アーケードの円柱は 古代ローマ風のコリント式柱頭を戴いているが、そのアカンサスの葉の間には、諸所に人の頭部が彫刻されるという、手の込んだロマネスクである。

 こうして パレルモの王室礼拝堂と並んで、世にも不思議な、ロマネスクとビザンチンとイスラムの混交した ノルマン建築の傑作を嘆賞できるのは、大いなる幸いである。

(2004年7月 "EURASIA NEWS")


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