COEY BUILDING in TOKYO

幸栄ビル

設計・監理=神谷武夫建築研究所



   


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大きな隅切りのある角地の特性を生かして円形プランのビルとし、独特な表情を与えた。鉄道に面しているため、高い遮音性のガラスブロックで連続窓を作ったので、内部は明るい。1階の極小の玄関ホールには噴水を設け、毎日の出入りに潤いを与えている。不動産会社の本社ビルとして設計したが、今は不登校児のフリー・スクールである「東京シューレ」が借りている。


所在地: 東京都北区岸町 / 設計: 神谷武夫建築研究所 / 設計期間:1989年1月〜6月 / 構造: 須賀設計事務所 / 設備: 三共設備設計事務所 / 電気: 山崎設備設計事務所 / 家具: 駿河意匠 / 工事期間:1989年8月〜1990年 11月 / 施工: 泉建設 / 鉄筋コンクリート造5階建 / 敷地面積:152u / 延床面積:534u / 掲載誌:「建築設計資料」 33. アーバン・スモールビル編 / 写真撮影: 斎部功

2階平面図




【 設計要旨 】

建設の目的 : 建設主は駅前で不動産会社を営んでいる。新たな本社ビルが是非必要というわけではなかったが、ここに土地を持っていたことと、事業用資産の買い換えとで、ビルを建てることになった。工事半ばまで自社用とするか貸しビルとするかの迷いがあったので、いつでもフロア貸しできるようにしておくが、ビルの仕様はあくまでも自社用の高品位レベルを目ざしたい、という希望であった。

立地条件 : JR王子駅の近くであるが、周辺は雑然としていて、あまり美的な環境とはいえない。おまけに東北本線その他が通る広い線路敷きに面しているので、騒音が大きく、遮音性が強く求められた。これらマイナス要因に対して、敷地は小さいながらも角地であるので、採光上も造形上も有利ではあった。

平面計画 : 大きく隅切りされた角地の特性を生かして、円形プランのビルを構想した。階段、エレベータ、水まわりは南西側に集めて、事務室の空調負荷の軽減をはかり、東側に大きく開けた明るい事務室を作った。開口部は遮音性を最優先して、ガラスブロックの横長連続窓を採用した。

1階は最大限の駐車台数を確保するために、玄関ホールは極小のものとなったが、その代わりに小さいながら「泉」をつくって、毎日の建物への出入りを印象的なものにしている。

2階から5階まで、将来どの階もフロア貸しすることができるよう、設備的にも空間的にも独立性を高めることが意図された。その反面各室が均質なものになってしまわないように、事務室や応接室、会議室といった現在の用途に即して、天井の構造や照明、造りつけ家具などをきめ細かく対応させている。その結果、規模の小さいこともあって、きわめて住宅的なオフィス空間となった。

   
水盤のある玄関ホール   トラバーチンの階段室   エレベータ・ホール


設備計画 : 小さなビルではあるが、不動産業という一種の情報産業の会社なので、将来のさまざまな情報の取り出しに対する配慮を求められた。そこでどの階の床もネットワークフロアの二重床とするなど、この規模のビルとしては設備を優遇している。

意匠 : 玄関ホール、エレベータ・ホールは床・壁ともトラバーチンとし、要所に赤トラバーチンを配した。「泉」をはじめとして、ドアや窓に用いた星形の紋様は、室内の家具や間仕切りにも現れるので、この建物のライトモチーフとなっている。

オフィスビルであるとはいえ、無機的な事務空間にはしたくなかったので、仕上げや家具の選定を含め、住宅的なソフト・インテリアを目ざした。 また各階にテーマ・カラーを設定して(2 階:青、3階:緑、4 階:茶、5階:グレー)、それぞれの階の個性化をはかっている。家具は硬いスチール製品を嫌って、ほとんど木製とし、特大の事務机やロッカーをはじめ、特注家具はすべて設計者のデザインである。

(『建築設計資料』33号 「アーバンスモールビル、オフィス編」1991年6月 )




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