ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲『管弦楽組曲』全曲2枚組、アルヒーフレコード
カール・リヒター指揮、ミュンヘンバッハ管弦楽団 1960年録音
今までに私が見たレコード・ジャケットとカートン・ボックスの中で
最も禁欲的で 美しい 清楚なデザインに、最初に出会ってしまった。
ここには 演奏家の写真はおろか、その名前すら書かれていない。
31 cm × 31 cm、生成りのキャンバス地の布装。1966年に購入。
当時は まだモノラル録音のレコードも多く流通していたので、
購入者が間違えないよう、STEREO の表示をしていた。

『堀辰雄全集』の時と同じことを書くと、 「けばけばしい色彩と
どぎついデザインで 毎日大騒ぎしているテレビ番組で育った現代の日本人には、
これは あまりにも刺激のない、物寂しい装幀に見えるかもしれない。」
「レス・イズ・モア」風に、あらゆる装飾や夾雑物を排除した このカートンボックスは、
建築でいえば、シトー会の修道院に相当するだろう。「世界建築ギャラリー」
の中の「フォントネーの シトー会修道院」に書いた一節を再録すると、

「(クリュニー会の)こうした 奢侈なあり方に異議を唱えたのが、11世紀も後半の
フランスの修道士 、ローベルトゥスと その同志である。「完徳」の生活を求め、
華美をすて、生成りの白い僧服に身を包んで、寂寥の地 モレームに、
そして シトーに 修道院を建てたので、これをシトー会と呼ぶことになる。
彼らは「祈り、働け」の標語のとおり、農業による自給自足の生活をしながら
禁欲的な修道に身を挺した。 修道院の建物からは 一切の装飾を追放し、
彫刻や壁画のない、厳格な石の建物を求めた。」



2枚組 布装カートン・ボックスの 裏面
初期のカートン・ボックスの裏面は、完全な無地だった。


保護袋に入ったレコード


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