『 茶の本』

岡倉覚三(天心)の最後の著作となった "The Book of Tea"『茶の本』
Fox Duffield & Company ニューヨーク、フォクス・ダフィールド社
今から 108年前の 1906年 (明治39) に 出版された。

版元製本の、布装の初版。19cm × 12cm × 2cm、160ページ、重さ 310グラム、金文字箔押し。大きな四角い枠取りは 1.5mm幅の直線の 色のない型押し。表紙の色合いも 布の仕上げも デザインも、高雅な印象を与えて 好ましい。本体上部には 天金がほどこされているが、花ぎれが無いのが残念。購入後 革製本した人が いたかもしれないが、実物はもちろん、古書カタログでも 見たことがない。おそらく、きちんと布製本された本は、革製本し直されるということが、めったになかったのだろう。



岡倉覚三の最晩年、といってもまだ 50歳であったが、インドで知り合った9歳下の寡婦にして女流詩人、プリヤンバダ・デヴィと、世を去るまでの1年間 往復書簡を交わした。プリヤンバダの最初の手紙には、岡倉から贈られた『茶の本』への 献詩が書かれている。



『茶の本』をたたえて

乾いた しわしわの茶の葉よ、いったい誰が夢見ただろう、こんな乾いた葉の中に、かくも緑なす春の潮の 歌と詩と美が保たれていたなどと。
こわれやすく、もろい、貝のような陶器の茶わんよ、いったい誰が信じえただろう、一滴の純金の滴(したたり)の中に、人の一生のよろこび、空想、そして聖なる夢を、この こわれやすい茶わんが示してくれるなどと。
日本の子よ、あなたは美(うる)わしくも描いたのだ、あなたの茶の水彩の中に、永遠の生の 微笑と涙、光と影を。
                   1912年10月1日 プリヤンバダ・デヴィ

『宝石の声なる人に』(愛の手紙)大岡信編訳、安野光雅装画、1982、平凡社



『 茶の本』   

岩波文庫のジャケットには、初版本の 古いモノクロ写真が
載っている。 訳者の 村岡博氏の蔵書だったのだろうか。