バニスター・フレッチャーの 『フレッチャア建築史』 第5版の邦訳版 (1919) の背と表紙。今から 90年ほど前の 岩波書店の版元装幀で、背と平とも素地のキャンバス装に、図案化したタイトルが 金で箔押しされている。天金(てんきん)。他の小口も カットして切りそろえてある。(当時、大倉書店や岩波書店から出た 夏目漱石の本は、ほとんどが 天金で アンカット本だった。)

「『○氏建築史』という題字の ○ が何という漢字なのか、フレッチャーの頭文字なのでしょうが、本の中にも書いてないので わかりません。」と 本文に書きましたが、「埼玉の酔仙」さんから、この字は「布」の篆書体(てんしょたい)であるという、ご教示のメールをいただきました。 篆書体というのは、ハンコ、特に実印などに使われる書体なのですね。
「フ」に「布」の文字が充てられていたのなら、あとの「レッチャア」にも漢字が充てられていたと思われますが、この本の訳者が充てたのか、あるいは 当時の建築界で流布していたのかも合わせ、不明です。   ( 2011 /05/ 30 )

犬養毅は明治 17年に、ヘンリー・チャールズ・ケーリー(罕理 査烈 圭列)の経済学の本を翻訳して、『圭氏経済学』という題名で出版していますから、原著者の名前の頭文字を漢字にして「氏」をつけ、『〇氏□□学』というような題名にすることが 出版界で行われていたので、『布氏建築史』という邦題をつけたのでしょう。   ( 2021 /11/ 07 )


   

『フレッチャア建築史』の邦訳版は 函に入っていた。本を入れる側も蓋のようになっているので、本体の日焼けを防いだ。天金や装幀も含め、かなりの豪華本だった(定価は 8円50銭)(当時の小学校教員の初任給が、12〜20円だったという)