『建築家のメモ U( メモが語る歴史と未来)』
日本建築家協会 関東甲信越支部 監修、2005年12月30日発行
A5判 ソフトカバー、オールカラー 210頁、丸善、2,400円.
言葉による覚え書きやスタディがメモで、図や絵によるものをスケッチと言うのだと思う。言葉によるものは、整理して書き直し、あるいはパソコンに打ち込んでしまうと、まず保存しておくことはない。ところがスケッチの場合には、清書したあとでもアイデアそのものの形象化として、あとで見直すこともありうるし、また早書きの絵画作品のような趣もあるので、残されるものもある。 > 私は原稿を書くのに、ある時期は初めから終わりまで全てワープロを打っていた。ところがワープロは漢字変換という作業があるために思考の流れと手の動きが一致せず、文章が生硬なものになったり、思考の発展が妨げられてしまったりするような気がして、いつのまにか原稿はワープロで打つ前に、まずスピーディに(乱暴に)手で書く習慣になった。設計の場合も同じで、製図用具やCADを使う前に、最初は手に鉛筆を持って、フリーハンドでスケッチを描くというのが、アイデアを展開するには一番よいのだろう。 ここに載せるのは、小さな別荘のスケッチである。この計画を始める前に『楽園のデザイン−イスラムの庭園文化』という本を翻訳したところだったので、イスラムの幾何学性と「囲われた庭園」というコンセプトが頭にこびりついていた。そこでプランは5m×5mの正方形を3つ並べ、その間に「囲われた庭」をはさみ込むことにし、そのさまざまな配列をスタディしていた。プランの進展とともに立体的なスケッチも描くが、じきにスタディ模型を作り始めるので、パースのようなスケッチというのはあまり描かない。この設計では初期の、ごく小さなメモ用紙のスケッチが残っていて、こうして見ると、竣工写真とほとんど違いがないようである。
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