レンブラント 『窓の少女』 ロンドン、ダリッチ美術館蔵
Rembrandt "A Girl at a Window" Dulwich College Picture Gallery, London


 「聖殿に近づく心で 人はダリッチに行くがよい。祈りの気分に浸りたい者は訪ねるがよい。そして首(こうべ)を垂れて 深く思って帰って来るがよい。」
 「レオナルドが居なかったならば、私は人生の苦闘を防ぎきれなかったかも知れない。しかしながら 悲しみ慕いぬいていながら、私はレオナルドに近づけないことがある。レオナルドは私にとって 非常に偉い先生みたいだ。余りに偉すぎて 高所よりじっと見おろされて、ちょうど神を慕う者のように、私はよく立ちすくんでしまう。  またボチチェリは私に懐かしい懐かしい人だ。悲しいたびに 蒼白い彼のマドンナの眸を 私はのぞきに行く。しかしながらボチチェリは 一緒に泣いてくれる悲しい魂だった。逢うと なお泣きたくなる美しい人だった。私の心は また別のものを欲しがることがある。先生とも違い、友達とも違う 母の情けを恋しがることがある。人生が私に余りに辛くなってしまった時、私を叱らないで、辱しめないで 唯ひたすらに暖かく抱いてくれる 愛の膝が欲しいことがある。
 レンブラントが 私にそれをくれる。自分の馬鹿なために 人生に余りにしばしば怪我をする私の、痛いところを さわらずに すべてを察して、許して、包んでくれるような レンブラントを、私の心は欲しがる日がずいぶんに多い。「母」を恋しがる者は「窓の小女」に逢いに来るがよい。そしてレオナルドに言えないことも何も打ち明けて 彼女に訴えるがよい。」

( 矢代幸雄『太陽を慕ふ者』より