『新潮世界美術辞典』ジャケット 初版 1985 新潮社



『新潮世界美術辞典』の改訂稿
 

2010年の冬、新潮社の『新潮世界美術辞典』の ごく一部の項目の 改訂稿を執筆しました。 この辞典が出版されたのは 1985年のことですから、もう 25年も前のことです。世界的に見ても 優れた美術辞典だと思いますが、25年間 まったく改訂をしていなかったので、少々内容が 古くなってしまいました。特にイスラーム美術やコロニアル美術の項は、当時は十分な扱いを受けていません。私は インドのイスラームと その後の建築の項の改訂を担当しました。

この改訂稿は 項目を歴史順に編集の上、『世界のイスラーム建築』のサイトにおける、「インド・イスラーム建築史」というページに まとめてありますので、 ここをクリック して ご覧ください。



しかし、すべての執筆者の原稿が揃っていた にもかかわらず、この改訂版は
出版中止となり、2023年の今も 出ていません。おそらくマフィアの圧力でしょう。

下は、2011年(平成23)に 新潮社から来た「出版留保」の通知ですが、
それから11年、出版環境は いろいろ変化しているわけですが、
いったい どうなっているのでしょうか。
今でも マフィアに義理立てしている ということでしょうか。




 

もともとは 『新潮世界美術辞典』の東南アジアとインドの ヒンドゥ教美術を主とする大阪大学名誉教授の肥塚隆(こえづか たかし)さんが取りまとめ役で、イスラーム建築関係の項目は 神谷がやってくれないかと、2009年の10月に 割り振ってこられたものです。肥塚さんとは、『インド建築案内』が出版された頃からの お付き合いです。
新潮社で 昔から この辞典の編集を担当してきたのは 青木頼久さんでしたが、出版中止になると同時に 停年退職してしまいました。
私が この仕事を引き受けた時に 肥塚さんに書いた 返書メールは、次のようなものです。

肥塚隆様 おたより ありがとうございました。
『新潮世界美術辞典』は、ずっと昔、「芸術新潮」に えんえんと連載されていたものが元になって、四半世紀前に最終的に今の形になったものと思います。そんな長いプロセスをふまなければ、決して できなかったろうという、大変に優れた美術辞典なので、ぜひ お手伝いをさせていただきます。
けれども、四半世紀以上も前に編集されたものだけに、現在から見れば、やや古めかしい辞典の 印象があります。単なる「書き直し」ではなく、「全面的見直し」 というのは、この急激な時代の変化に 適応させるための作業だと思います。私の担当すべき分野から言いますと、最大の変化は、イスラーム文化への認識度だと思います。
あの辞典は、当時としては 世界のさまざまな文化を できるだけ対等に扱おうとしたものだとはいえ、やはり西洋美術中心でしたので、イスラーム美術・建築の分量は 少ないものでした。次に、庭園美術が あまり認識されていませんでした。そして、当時は まだ扱いが難しかった コロニアル美術・建築が、今では完全に 歴史的なものになり、日本で、それに相当する赤坂離宮が 国宝に指定されたのは 象徴的です。
そうした観点から、辞典を ざっと見渡してみますと、いくつか 新しい項目が必要になります。時代と地理を組み合わせながら、書かれているべき インドのイスラーム建築の分野をあげますと、

A.パーシー・ブラウンのいう「地方様式」としては、
 1. 最初のイスラーム建築 デリーと アジュメール これは、あります。
 2. ベンガル様式(地方)ガウルと パーンドゥア これは、欠けています。
 3. グジャラート様式 アフマダーバードと チャンパーネル 欠けています。
 4. デカン様式 ビジャープルと ゴルコンダ あります。
 5. マルワー様式 マンドゥ あります。
 6. カシュミール様式 シュリーナガル(庭園を含む)欠けています。
 7. ラージプート様式(イスラームと ヒンドゥに またがる)欠けています。

B.中原のムガル朝建築 これは、ひととおり あります。
    ササラーム、デリー、アーグラ、シカンドラ、
    ファテプル・シークリー、フマユーン廟、タージ・マハル廟

C.コロニアル建築(純英国式のものは除いて)
 1. インド・サラセン様式 欠けています。
 2. エドウィン・ラチェンズと ニューデリー計画 欠けています。

D.現代建築は、他の文化圏での扱いとの関係で、
    バルクリシュナ・ドーシ、チャールズ・コレア、ラージ・レワル

他に望ましい項目としては、
    階段池と 階段井戸(クンダと ステップウェル)
    シク教の建築 アムリトサル

新規項目は、地方名で立てるか 都市名で立てるかは、他との関係で。
以上、おおざっぱな印象ですが、ご検討ください。
                           神谷武夫